長谷川朗さんとの出会い
編集担当が見た、『しんかんせん!』制作の裏側について、少しだけ書かせていただこうと思います。
長谷川朗さんとはじめてお会いしたのは、2015年の夏に、HBギャラリーのコンペ受賞者として、個展をされていたとき。もう5年も前のことです。
たまたまギャラリーに立ち寄ったのですが、丸、三角、四角などの図形を使って、リズミカルに構成された画面と、色使いのポップさに惹かれました。図形に色がついて目が描かれているだけで、そこにキャラクターを見出してしまう。人が見ることで完成するとでもいうのか、絵を見るという行為の楽しさに気づかされるような気もしました。
この絵、子どもが見てもきっと楽しいだろうな。だって見ているだけでわくわくするしと思い、「いっしょに絵本を作りませんか?」と声をかけました。
一度全ボツに…?
そんなきっかけで、絵本の制作が動き出しました。個展のイラストなどからイメージをふくらませ、32ページのラフにしていきます。
ふたりの憧れの穂村弘さんにも、文章で制作に参加いただけることに!
しかし、その路線で一度完成しかかったものは没にして、ゼロから考えることになります。きっかけは、穂村さんから出た何気ない言葉。しかし、長谷川さんも編集者も「たしかに!」と思ってしまったのです。
そして、新たに決めたのが「新幹線」という題材です。仕切り直して、3人での制作がはじまります。
ラフで修正を重ねていきます
新幹線に乗って降りるまでに起こることを描く、ということが決まり、いれたい内容も大体決めたところで、長谷川さんのラフ作成が始まりました。
販売員さんが押してくる隙間なくものが詰められたカートをどう表現する? 走ってくる新幹線のビジュアルは? お弁当の定番といえばシュウマイ弁当!それをどう絵にしようか?
目標は、どの見開きも格好よくキマっていて、かつ、どんな場面なのか、誰が見ても分かりやすいような絵にすること。何度も描きなおしたり、考え直したり、穂村さんにもアドバイスをもらいながら、時間をかけて少しずつ絵をかためていきました。(下の絵はお弁当のページのラフ)
長谷川さんと会って、ラフを見ながらシーンや構図の相談をして、最後には趣味の映画の話で盛り上がり、ある程度まとまったら穂村さんにも見てもらうというのが続きました。
やっとラフが出来上がると、どんどん制作はスピードアップ! 穂村さんの洗練された文がつき、原画が完成し、デザインの工程に進んでいきます。佐々木俊さんによるデザインや、印刷のこだわりなどがあるのですが、今回は割愛させていただきます。
こうして、ゆっくり時間をかけて完成した絵本は、はじめてひとりで新幹線に乗る男の子の、ごくささやかな冒険譚になりました。
ぜひ絵本を読んで、穂村さんと長谷川さんが作り上げた世界を感じてみてください。